閑居の窓から=路線バスの光景(4)バスが広げる自立と自律と自由

路線バスは時に住宅街の狭い通りを縫うように走る。そんな住宅街のあるバス停から、ニット帽を被った高齢の男性が、手にした杖で身体を支えるようにして、乗降階段を一段、一段、踏みしめながらバスに乗ってきた。

 

片手が杖で塞がった不自由ななかで何とかパスを取り出して運転手に見せて車内に歩を進めたものの、手近の空席に腰を降ろすこともなく、降車階段近くの手摺を握りしめて立っていたが、次の停車場で、乗るときと同じように苦労しながらバスから降りて、杖に身体を持たせかけて、ゆっくりと住宅地の塀に沿って歩いて行った。

 

その男性は、近くの知人を訪ねるのかも知れないし、かかりつけの医院に向かうのかも知れない。いずれにしても、この路線バスがあるからこそ、その男性の日日の暮らしの自立と自律と自由はほんの少しだが拡がっている。

 

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